ミクロな世界を組み立てろ

 

7月……だと……………

 

 

えー、

今回読んだ本は何といいますか、

化学本なのですが、

超個人的な理由で心がむず痒くなる本でした。

 

すごい分子 世界は六角形でできている

佐藤健太郎

講談社ブルーバックス

 

著者はサトケンさん。

化学本ではおなじみの人ですね。

 

化学というのはミクロの世界でこの世界を考えて

分子レベルで物質を作り上げることが主流にある分野だと思っているのですが、

サブタイトルで予想されるように、

この本は分子の中でも「芳香族」に着目した本です。

 

芳香族。

 

字面の通り、良い香りが−というか強い香りが−する分子シリーズです。

自然界にも沢山あります。

亀の甲模様はキッコーマンでお馴染みですが、

基本骨格がそんな亀甲型をした物質群が芳香族です。

この六角形をベンゼン環、と言います。

芳香族は基本的にこのベンゼン環に色んなアクセサリーがぶら下がって出来ています。

 

アクセサリーの方が大きい分子とか、

ベンゼン環自体がいくつもくっついてたりとか、

もはやベンゼン環を持たない芳香族とか、

 

そんなものも沢山あるのですが、

やはり芳香族といえばまずベンゼン環です。

そしてアクセサリー無しのつんつるてんベンゼン環は、

その名もずばりベンゼンという名の分子です。

 

ベンゼンが見つかったのが1800年代の頭で、

まだ原子も見つかっていません。

当然分子という概念すらありません。

このころの有機化学者たちの脳内どうなってたの……というのは私の最近の疑問なのですが、

この本曰く、

無機化学同様に構成元素の割合、

つまり「炭素・水素・酸素がどれだけずつ含まれるか」という分析は可能で、

組成式の感覚はあったっぽいです。

その結果このベンゼンなるものはC6H6であるらしいことがわかった。

 

そしてケクレがあの六角形構造を初めて出したのが1866年。

 

なんども言いますが、原子も分子もない時代です。

そんな時代に

「炭素が輪っかになって並んでいる」ことを考えてそれを発表したケクレ。

天才か。

当然推論でしかない訳ですし

この構造式でも当時は説明しきれないところはあったのですが、

当時の化学者たちにとって六角形の綺麗な形は

「その手があったかー!!」と目からウロコな発想だったのだろうなあと思います。

目を引くのは対象性の高さですね。きれいだよなあ。

 

 

現在ベンゼン発見から200年も経っていない訳ですが

新しい分子の合成と解析、天然物からの分離と精製を繰り返し、

芳香族化学は爆発的に進んできています。

やはり最近のトピックとしては電子材料への応用がホットです。

ELとか、LEDとか、太陽電池とか。

論文のイントロダクションなんか読んでもそんな感じです。

有機物は軽くてしなやかですから。

 

その他芳香族性と六角形を生かした展開として、

MOFとカーボンの世界があります。

 

ベンゼン環部分はただの炭素の直線的な連なりと比べて変形しにくく「硬い」のが特徴で、

3つ程度ベンゼン環がつながった分子を骨組みとして、

立体的な形を作り上げることが可能です。

これをMOF(金属有機構造体)と呼んでいて、

分子レベルでの格子や籠を作り、

その狭い空間を使って何かしてやろうという発想です。

金属錯体と自己組織化の世界です。

 

また「六角形の世界」というとやはりカーボンナノチューブグラフェンです。

もはや芳香族とかそんな領域ではないのですが、

ベンゼン環がだーーーーっと連なった炭素のシートを化学合成しようってところまで来ています。

物理的手法との合わせ技で新時代が来た感じです。

 

 

現在の芳香族の世界を眺めることができる良い本でした。

化学系なら大学の学部生で問題なく読めるんじゃないでしょうか。

ちょうどヒュッケル則とか習った後ぐらいで。

 

現在の研究の最前線について書いてあったので

教科書に飽きたなーとか

参考書はちょっとしんどい気分だなーとか

研究室どうしようかなーとか

そんな時に気楽に手に取ってもらいたい本です。

 

 

 

このブログを昔から見ていただいている方が居るかどうかは存じ上げないのですが、

私もラボ時代は芳香族を相手にしてましてね、ええ。

なるほどあの頃を見返すとこうなるのかっていう……

真面目な学生ではなかったので後ろめたさもありましてね。

心がむずむすシクシクする。ははっ。