時間は逆戻りするのか ー マクスウェルの悪魔の復活か?

 ご無沙汰しました。そして知らない間にタグ機能なるものが出来ていました。みんな使ってるなら意味があるのですがどうなんでしょう普及率。

 

 さてここしばらく感想書いてなかったですが、こんな本読んでました。Kindle版しかリンクを貼れないんですが紙も普通にあります。

 時間は逆戻りするのか 宇宙から量子まで、可能性のすべて
 高水裕一 著
 講談社ブルーバックス

 

 著者の高水氏はケンブリッジに留学していたことがあるらしく、その時の所長がホーキングだったとか。ホーキングといえば宇宙論の世界では超有名どころの大家ですねえ。この間ノーベル賞を取ったペンローズと共同で当該理論を作った人でもあります。

 そんな著者がまさにタイトル通り、いろんな宇宙モデルや量子論の世界で時間が逆行する可能性について書いた本がこの本です。前半ではこれまで物理が時間をどう扱ってきたか、後半では最先端の超弦理論とループ理論を比較しながら時間の起源を探し(たり探さなかったりし)ます。

 

 時間の逆戻り。

 

 

 もしもあの時に戻れたら、と思ったことが無い人はいないと思います。あるいはドラえもんでおなじみのタイムマシンに乗れたらいつに行こうか、なんてことを考えたことがあるでしょう。
 未来に行く方は、原理的には、光速近い速さでしばらく運動すればいいというのは結構有名な話ですが(浦島効果というやつ)、過去側へ行く方法は知られていません。未来へ行っても戻って来られないのが現状。
 まあ「過去へ行く」のと「時間を巻き戻す」ことが同義かどうかは置いておくとして。とにかく、過去方向へ向かっていく時間です。そんなものが存在するのだろうか、なぜ存在しないのだろうか、存在するとしたらどんなものか、どうやったら存在するのか。

 

 そんな時間の戻る「可能性」について、たとえば

「時間の次元が1次元じゃなくて2次元とすると一方向にしか動かなくても円を描けば過去に戻れる」

とか

超弦理論に出てくるブレーン(膜)同士が衝突方向に向かっている時に逆行するんじゃないか」

というように物理真正面から検討します。さらには

「そもそも時間が戻ったとして我々はどうやってそれを認識するのか?」

という認知学や心理学的な時間に対しても目を向けるあたりが面白く、確かに巻き戻るとしたら私を含めて宇宙ごと巻き戻るはずだよなーきっと分からんよなーと納得感があります。
 順方向逆方向というのは相対的なもので、全部戻ったら多分そっちが順方向なんですよね。覆水が盆に返るのが普通。少なくともマクロなスケールで空間の一部の時間だけが逆行するということは今のところなさそうです。

 

 ただし。

 どうやらミクロスケールになると逆行が起こりうる……かも、らしいのです。

 

 量子コンピュータの研究をしていたロシアのグループが、ミクロスケールで時間の逆行を観測した、という報告をしました。詳しいことはわかっていないようなのですが。

 

 ここでいう時間の逆行現象とは「秩序の回復」です。

 

 やはり時間の方向性の話が出てくる以上避けられないのがエントロピーでしてねーーー!!
 以前「時間は存在しない」(カルロ・ロヴェッリ)の本を読んだ時にもメインテーマだったのですが、あらゆる物理法則の中でほぼ唯一時間を方向付けているのはこのエントロピーです。 

yamagishi-tea.hatenablog.com

  このエントロピーなる物理量、基本的に物事は単純・秩序から複雑・乱雑へと向かう、ということを言うのですが、このロシアのレソビク博士らは「一度バラバラになったゼロイチの列が再び整列する」という現象を発見したようで……熱力学の第2法則が破られた!と大注目を集めています。

 これほんとになんなんでしょうね?キュービットが過去への旅をした、と言う言い方をしていいのかどうか分からないですし……

 このミクロなスケールでの出来事がなんなのかについて、続報が待たれます。

 

 

 ループ理論と超弦理論を比較検討していくパートもあり、上にあげた「時間は存在しない」の副読本としても頭が整理されてとても良い本でした。「時間は存在しない」を読んだ時には「今の物理学こうなってるのかー!知らん間にとんでもないこと言い出してるな!!」という理解の仕方をしていたのですが、まだ人気があるのは超弦理論らしいです。

 いろんな宇宙像を久しぶりに眺めることが出来て満足な一冊でした。