!歳万国衆合本日

 

雪がないとはなんだったのか。

 

こんばんは。

今が一年で一番寒い時とはいえ

未だ積雪観測がない海辺の街です。

そもそも積もることがあるのだろうか、ここ。

 

さて最近読んだ本はハヤカワ文庫の新しいやつ。

珍しく古典じゃないのですよ。

 

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 上/下

ピーター・トライアス著 中原尚哉訳

早川書房

 

タイトルがどストレートにUSJ。日本合衆国。

これだけでどういう仮想空間なのかがよくわかる。

WW2で日独が勝った世界。

アメリカのみならずソ連も日独で東西分割されてるという

大本営だってそこまでは求めてねえよ!な世界線

北進ルート選択してうまいことソ連をドイツと一緒に叩いたらしい。

イタリアはヘタレパスタ。

イギリスが日和ってる。

なぜか絶賛ベトナム戦争中。なんでや。共産勢力おらんやろ。

日本は米国占領後もいわゆる戦時中の軍隊式で統治している。

天皇陛下は神様。不敬は処刑。

憲兵だって特高だっているよ!

そんな世界。

要はディストピア

広すぎてそんなの維持無理だろ……と思うがまあご愛嬌である。

最近ドラマ化したらしいディックの「高い城の男」と同じような世界設定。

著者も述べている通りディックから強く影響を受けている模様。

 

で、やけにメカメカしい表紙なんですが

表紙詐欺というか別にロボットを推すような話じゃなかった。

アクセント的に出てくるだけだものロボット。

基本的には広いアメリカ西半分を統治するためのメカ。

SF的には、スマホみたいな「電卓」がある一方で

秘密通信の手段として「肉電話」があるという、

このデジタルとアナログのバランスが良い。

現実のスマホは電話というより小さなPCだが、

「電卓」はいわゆる電卓がコンピュータ化したみたいな感じ。

 

基本的に低スペックだけれどプログラミングスキルが振り切れている石村紅功(ベン)と

優秀な特高課員だけれど頭に血が上ると視野がゼロになる槻野昭子が

失踪した、違法ゲーム「USA」開発者であるところの

帝国軍人六浦賀計衛(むつらがかずひろ)将軍を追う、バディもの。

 

結構えげつない話だったな、というのが素直な感想。

戦争は一応終わっているが独立派がテロ活動をしていて

とても平和とは言い難い状況の中に二人で突っ込んでいく。

肉がえぐれる、腕が喰われる、体が融ける。

極限状態が続くので精神的にはしんどい。

そんな状態で二人がぽつりぽつりと過去を語る。

 

この2人、最初は少なくとも表は極右というか国粋主義というか、

天皇陛下万歳」という態度をとっている。

ベンの方はポーズかな、という雰囲気が最初からするのだが、

昭子はこいつ大丈夫かというレベルで狂信的。

そんな昭子がいろんな(裏)世界を見て、いろいろと思い悩む。

 

全体的にどっちかというと昭子に重きが置かれてる気がした。

変化が大きいのは昭子の方。

というか、ベンが淡々としている。

びっくりするぐらい淡々としている。

背負った過去が重すぎて逆に吹っ切れたやつか。

最後イケメンすぎて泣いた。

 

こんなえげつない世界にもどこかに平穏があるのかな、と少し考えたが、

市井の人々の生活描写というものがまるでないので

一般人の幸福度がどんな感じかはわからない。

カラオケはあるっぽい。

 

日本サブカルのオマージュ、は

私が明るくないのでわからなかったが、

凸凹バディがにやりと笑い合う瞬間がたまらない一冊だった。

久地楽親子の関西弁は癒し。