延々と現在が続いていく世界

 

暖かい節分から一転、また大雪予報が出ていますが

皆様はいかがお過ごしでしょうか。

うちの近所でも梅の花が綺麗に咲いております。

 

さて。

最近アメリカで人気であるらしい、

ディストピア小説の古典中の古典。

 

一九八四年

ジョージ・オーウェル

高橋和久

ハヤカワepi文庫

 

1984

新訳版がちょうど出たところみたいです。

何も知らずに買ったのですが、

伊藤計劃虐殺器官が無事映画化できたそうで、

そのタイミングでハヤカワが仕掛けたディストピアフェアの一環らしい。

一方で米国では大統領があんな調子なせいで売れているらしい。

それはなんかちょっと違うんじゃあないかなあ、と思うのですが。

 

私がもともとこの本を知ったのは実はSF経由ではなく法学方面からで、

大屋氏の著書に度々「1984的世界」が出てくるのがずっと気になっていました。

今回やっとこさ手をつけた、という訳です。

 

あちらこちらで参照され引用され語られる超有名な本な訳ですが、

ざっとあらすじ。

 

時は1984年。

この世界には3つの国しかない。

旧米国中心、英国+アフリカ半分の大海洋国家オセアニア

旧露国中心欧州大陸+アフリカ半分、その名の通り大陸の大半を掌握するユーラシア

旧中国チベット日本、アジア地域が一つになったイースタシア

その他緩衝地帯。

三つ巴でどろどろぬまぬまだらだらと戦争を続けている時代。

旧インドあたりが戦線になっている模様。

 

舞台はオセアニア旧英国領のロンドン。

何がどうしてそうなったのかわからないがオセアニアもゴリゴリの全体主義統治。

「ビッグ・ブラザー」を指導者と仰ぎ「党」が統治し「思想警察」が目を光らせる。

主人公はウィンストンは「真理省」で働いているおっさん。

 

あーもーこれだけで陰鬱灰色世界ですよ。

実際その生活はろくなものじゃない。

現実の1984年と言ったら冷戦最終盤ですよ。

ロスオリンピックですよ。

ターミネーターですよ。

ゴジラですよ。

それがロンドンにおいてコーヒーもジンもまともなものが手に入らない、

チョコレートすら配給制、各家庭に街中に監視カメラ。

誰がスパイで誰がスパイの真似事をしているのかわからない密告社会。

たまにミサイルが降ってくる。

 

戦争は平和なり

自由は隷従なり

無知は力なり

 

が、スローガン。

なんだかんだ言っても平和な現代日本からしたらろくなもんじゃない。

 

この話についての考察やら何やらはもう出尽くしているだろうと思われます。

なにせいろんな要素が詰まっていて

こんな言い方したら偉そうですが「よくできてる」んです。

思想統制にもつながる情報統制システムはいっそ見事。

 

徹底した、過去改変。

 

現在自国に流れる情報全てをコントロールできるが故の、過去の消滅。

党が常に正しい訳ですから、今に合わせて過去の情報全てが書き換えられる。

党は革命によってオセアニアをつくり、

その時からずっと存在しつつけ、

いつだって正しい予測をし、

人々を導いてきたという訳で。

もちろん書き変える人々が存在していて、主人公もそこで働いている。

収穫高も生産高も戦線の状況も交戦国すら、

今この瞬間に、党から発せられた情報が、正しい。

 

世界5分前仮説なんてものがありますが、

過去などというものは所詮記録と記憶の中にしかなく、

記録の方を徹底的に統制すれば

記憶なんてものは頑張ったって人間の一生以上には保持できない以上

時間軸なんてものを想定するだけ無駄です。

 

これはすごいなーと思いました。純粋に。

やろうと思ったら可能かもな、とも。

通信網が出来上がってしまった私たちの世界だと今更厳しいと思いますが、

ネットが一般化する前から手をつけたら、あるいは。

いや今からでも可能……か?

この世界は自分の目で見て回るにはあまりに広い。

絶対に情報のほとんどは伝え聞くもの。

過去どころか現在の状況なるものすら本当かどうか確かめる術はない。

主観から見る歴史や科学は、あまりに脆い。

 

カラスだって白くなる情報統制は、

しかしこの科学=客観との相性が最悪なんですが、

ここがいまいちどうなってんだかわからなかったです。

客観などというものは存在しない、んでしょう。

だって党が全てだから。

何にも先立って党が正しいから。

技術的にも第二次大戦後から進歩なさそうです。

そもそも戦争に勝つ必要がない以上

党としては「科学も技術も進歩させる必要がないししないほうがいい」でしょうから、

研究なんかどこでもしてないのかな。

大学とかとっくに潰してそう。

そもそも教育なんかいらんか。

無知は力なり、ですもんね。

でも指導部の人たちだって代替わりするし……うーん………

やっぱりここがちょっとわからない。

一般向けには教育不要でいける気がするけど。

 

このほか統治のために、

言葉を消滅させていく「イングソック」や

必要な時に必要なことを正しいとするための「二重思考

残忍極まる拷問と思想教育など

さまざまなものが編み出されており機能しています。

しかし、これらはツールです。手段です。目的ではありません。

 

党へ反逆し、

ビッグ・ブラザーをやっつけることを望む主人公は問います。

 

やり方はわかるが、目的がわからない

 

答えはおそらく、「全ては党のために」。

権力のために、権力そのもののために。

党中枢であるオブライエンは個人なんて細胞みたいなものと言ってのけます。

党の思想に全てが統合される。

主人公も。

 

このお話は、バッドエンドなんです。

だから最高なんです。

悪の親玉ぶっ殺して終了みたいなオチじゃないところが素晴らしいんです。

 

 

 

さてこの社会が立ち行かなくなり崩壊するとしたら、

どんなストーリーでしょうか。

一つには細胞の死でしょうか。

そもそも各人すごく健康状態悪そうですから。

人がいなくなって機能不全を起こす。

もう一つは指導部の劣化でしょうか。

党中枢すらものを考えられなくなって崩壊する。

それから緩衝地帯であるところから何か起こるパターン。

まあ戦場になりがちなので厳しいルートかな。

 

 

といろいろ考えたところで畳むことにします。

積ん読されている割合がかなり高いだの

読んだふりをしている人が多いだのと言われておりますが、ぜひ一度。

読み継がれるだけの価値のある本です。