南国の楽園にて

 

すっかり秋の陽気ですが皆様いかがお過ごしでしょうか。

こちら報告会差し迫る中サービス出勤をすべきか考えております。

どう考えても間に合わないよねいろいろと。

 

 

さてそんななんかでも本は読む。

 

鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ

川上和人

新潮社

 

研究者によるフィールドワーク本第二弾。

前回はアフリカがモーリタニアが舞台のバッタ格闘記録だったが

今回は日本国小笠原諸島

 

ここ。本土から1000km、なんと船で丸24時間。

しかも基本的に1週間に1回しかこない。

まさに孤島。ご先祖様はよく入植する気になったなと思う。

 

タイトル通り、研究対象は鳥類だ。

といって著者の専門である生態学に限らず

著者が経験した笑いあり涙ありの研究エピソード集だ。

「まあまあ聞いてくれ給え」と肩を組まれ

「それでは一席」と語りが始まる。

語り口が気安いが軽いかというとそうではなく…いや……のっけだけ引こう。

 

  おにぎりを食べいてると、しばしば愕然とさせられる。なんと、梅干しが入っているのだ。

 ウメはアンズやモモの仲間、まぎれもない果物だ。フルーツを塩漬けにして、ご飯に添えるなど、

 非常識にもほどがある。私が総理大臣になったら果物不可侵法案を可決し、梅干しを禁止、

 フルーツの基本的権利を守ることを約束する。ついでに酢豚からパインを排除しよう。

  と、おにぎりに話しかけながら、24時間の船旅を過ごし、小笠原諸島に向かう。これが私の仕事である。

  無論、私はおにぎり屋の後継ぎではない。鳥類学者だ。

 

終始このテンションだ。

これを軽いと見るかネタ乗せすぎで重いと読むかは人それぞれで、

笑いながら勢いで読む本としては良かったと思う。

この本のネタ何年持つのかな。

 

さて本文本文。

先にも書いた通り研究生活の中のエピソード集なので

難しい話はなくサクサクと読んでいける。

 

メグロをめぐる独自性の話、

ウグイスにまつわる命名の話、

西ノ島をめぐる絶望と希望、

二等辺三角形をした平均斜度45°の南硫黄島登頂調査、

外来生物ネコにまつわる苦悶、

キョロちゃんについての考察、

死んだふりは有効か?

哀しみの国際学会、

みすみす新種発見を逃してしまった後悔、

研究成果とプレスリリースについて。

 

個人的にはキョロちゃんについての考察が面白かった。

大きなくちばし、派手な色合いの体、足は鳥の典型の三前趾足で……

と形態からどんな鳥なのかを考えていく話。

そういやアニメやってたな、キョロちゃん

どんな話だったか全然覚えていないが。

 

都会のカラスハトスズメならいざ知らず、

絶海の孤島での鳥類の生態なんぞ研究して何になるという話だが、

この点については著者も強く意識していて何度か話題に上がる。

最近ヒアリ騒動で研究者が引っ張りだこになったのは

それが人間に直接/間接的に危害を加えるという一面があったからだ。

あれ、人を噛まない種なら全く話題にならなかったぞ絶対。

 

知るって面白いじゃん!というのは

スポーツって感動するよね!と同じで

必ずしも万人に共有された感覚ではないので、

そこに税金をつぎ込むことにいろいろという人もいるのだろう。

どっちも認められる世の中がいいと思うのだが、

本の中にも出てきた多様性保存と同じ話で

余裕がないとできないことというのもまた一面。

それでも著者は多様性を信じている。

論文のいくらかはCiNiiで読めるので読むと良いと思われる。

 

 

しかしバッタの人もそうだったけど、

「俺は本来インドア派なんだ!」って叫ぶフィールドワーカー、

嘘を言ってるか、

インドア派だけどアウトドアも苦じゃないタイプなのか、

アウトドア派でもそう叫びたくなるほどフィールドワークって過酷なのか、

どれなのだろうなあ。