ロバは長生きだから

 

金井さん打ち上げ成功おめでとうございます。

 

寒いですね。

すっかり寝具を冬装備にしました。

もうこれ以上はあったかくならんぞ……

 

 

さて今回はソビエトの香り漂うこの本。

 

動物農場

ジョージ・オーウェル

ハヤカワepi文庫

 

オーウェルの本は以前の「一九八四年」から二冊目。

こちらも代表作で、動物農場の方が前(1944年完成)。

原題は「Animal Farm, A Fairy Story」なので、「おとぎ話」。

邦訳はですます調で書かれた、童話のような語り口になっている。

動物農場」というと動物を栽培でもしてるのかと一瞬ぎょっとするが、

「メイナーの農場(Farm)」を

「動物達の農場」と改めたためにこんな名前になっている。

 

話はこの農場の動物達により進められる。

それぞれ名前があり、会話可能だ。

ただし頭の良さには動物によって差がある。

豚は知的だが、羊はいまいち。

馬はそこそこ。猫はやはりずる賢くちゃっかりしている。

動物ごとの戯画的な特徴づけもあるが、

その中にもさらに個々の性格がある。

そんな世界観。

 

冒頭部、一匹の老いた豚が演説する。

ざっくりと、こんな具合に。

 

「ジョーンズ(農場主)の不当な搾取により我々の生活は労苦に満ちている。

 我々は幸せな生活を知らない。自由を知らない。

 しかし卵もミルクも本来我々の物だ。

 この大地は我々が快適に暮らせるだけのものを生産できる。

 しかし人が居るがために我々はやっと餓死しないだけの生活しかできない。

 惨めな暮らしをし、そして天寿すら全うすることなくナイフによって死ぬのだ。

 これは不当なことだ。全ては人間の圧政のためだ。

 反逆が必要なのだ同志諸君!

 我々の労働による生産物は我々のものであるべきだ!

 自由を勝ち取ろう同志諸君!!」

 

どこのレーニンだよ。

もうこの時点で展開読めるじゃんよ。

ろくな結末が待ってないよこのお話。

 

この後は予想通り、見事にソ連の歴史をトレースしながら話が進む。

 

ひょんなことから革命が成功し「動物農場」を設立。

トロツキーらしき豚とスターリンらしき豚が争い、

暴力によってスターリン独裁体制が築かれ、

個人崇拝が起こり、

豚達は特権階級となり、

恐怖政治が行われ、

そのうちに初心は忘れられて行き、

結局ミイラ取りがミイラに………

 

と箇条書きにしてしまうのは簡単だが、

その過程が外から見ていたらただただ哀れ。

 

内部から見たらわりと最終盤まで決定的な離心は起こらない。

「どうしてこんなことに」「こんなはずでは」

というシーンはちょいちょいあるものの

空腹と労働と

「それでも我々は我々自身で作った動物農園の一員だ」

というプライドのせいでじわじわ変わっていく農園をどうすることもできない。

気づけば豚達は「人間」になってしまう。ああ。

この動物達の無力感が心にのしかかってくる物語だった。

 

とまあ、中身はもう誰が読んでもスターナリズムの批判としか読めないようなものだし、

巻末の序文案を見るにオーウェル自身もそのつもりで書いている。

これを社会主義そのものの批判と読むべきかについては議論が分かれる所みたいだが、

個人的には社会主義批判と見ていいかなと思っている。

ロバのベンジャミンが

「ロバは長生きするんだ」

と繰り返し言うのが、陳腐に言って仕舞えば

「歴史は繰り返す」とか「誰がトップに立とうが結局おんなじ」

辺りを意味しているように聞こえるので。

 

ただ前述通り完成が1944年で

つまりまだWW2すら終わってない時代に書き上げられたものなので、

最終的にソ連が崩壊したように

農場が崩壊する所までは話が至らない。

あえて続きをこのストーリーで展開するならどのようになるか。

冷戦期をどのように書くか。

この頃はソ連が少なくとも対外的には輝いていた時代になるわけだが。

そんなことを考えるのに挑戦するのも楽しい。

 

 

またこの本、出版までに相当もめており、

その過程は巻末の文章に詳しい。

ここだけでもかなり読む価値がある。

当時は英国とロシアは同一陣営なので

おおっぴらなスターリン批判は憚られる状態であったよう。

時代を問わず世の東西を問わず

言論界ってのは同じ悩みを抱えているのだなあ…ということがよくわかる。

 

さして長くないお話なので、

時間がちょっとできたという方はぜひ。