人間誰しも野蛮さを持つ

 

先日初めて天ぷら屋さんに行きました。

ふわふわでした。

美味しかったです。

とても美味しかったです。

 

 

という幸せな話から毛色が変わり

ディストピアものを久しぶりに読みましたという覚書。

いつものネタバレ進行で。

 

蠅の王

ウィリアム・ゴールディング

黒原敏行訳

ハヤカワepi文庫

 

いわゆるディストピアというより

ユートピアの崩壊物語といったほうが良いかもしれません。

 

本編内では舞台背景はよくわからず、

一応英国が存在しているようであり、

その英国は戦争状態にあるという程度の情報しかありません。

英国の子供達が飛行機で疎開中に無人島に不時着するところからお話が始まります。

 

主人公は頭の回転が早く、背が高く、

少年ながらどことなくカリスマ性を持つゆえに少年たちのリーダーに選ばれたラルフ。

ラルフの対になるのが、体ががっしりとしていて非常に活動的、

強引なところもあるが勇敢、承認欲求強め、元聖歌隊隊長のジャック。

 

はじめは大人の居ない南国楽園生活を謳歌している子供達が、

そのうちに

「無事救助されるためにやるべきことをちゃんとやろう」ラルフ派と

「狩りをして無人島生活を楽しくやろう」ジャック派に分裂して争い出し、

前者も空腹感で揺れ動く一方で

後者は人間らしい理性を失っていき、

そんな中で島には正体不明の「獣」がいるのではないかという疑念が持ち上がり……

 

 

文明・理性・秩序・冷静さ・議論と民主主義

野蛮・本能・興奮・勇猛さ・リーダーシップと独裁

の対立のなかに恐れを放り込んだ話でした。

狩り派の狩猟メイクなんかは個性や自立心の喪失としてわかりやすく書かれています。

構図自体はとてもわかりやすい。

 

理性サイドに近いけれど少し距離を置くサイモンという子が出てきて、

子供視点では変わった子、

物語の中の立ち位置としては感受性が高く、真に賢い子として描写されています。

この子が「獣」の正体に気づくのですが、

まさにその「獣」に食い殺されてしまうという展開。

 

まあ、サイモンは、

興奮状態の輪の中に飛び入ったがための、

事故だとしよう。

錯乱状態にあった群衆に飲まれたとしよう。

よくないけど、彼らに殺意はなかったと思おう。

 

しかし、議論や文明の信奉者(行き過ぎ感はある)であり、

先を考えて行動することが得意で、

象徴だった道具の所持管理者だったピギーという少年に至っては

興奮状態とはいえ明確に対立の中で殺される。

ここまでくるともうほんとに救いがない。

 

そして主人公も殺意でもってあと一歩で息の根を止められるところだった。

理由などほとんどなく、読者視点では完全に私怨である。

ジャックが承認欲求を変な方向にこじらせたがために、ラルフは死の寸前までいく。

 

ちなみにもう1人物語中に亡くなっている子がいて、

この子は物語序盤で主人公たちの考えなしの行動のために事故で亡くなります。

なんか段々子供が死ぬ理由が事故から意図的な殺人に変わっていくんですよね。

 

この物語の「獣」は人間の持つ獣性=悪魔的部分そのものです。

タイトルの蠅の王もベルゼブブで、悪魔なんですねえ。

 

主人公も含めて、

人間というのは程度の差こそあれ、

誰しも獣的な部分や我が身可愛さに保身に走る卑怯さを持ってるし、

集団心理やトランス状態は簡単に暴力性をむき出しにしてしまうね。

でも理性って、取り戻すこともできるよ。

 

そんなお話でした。

厨二病的連想ゲームというか、

「蠅の王=ベルゼブブ+(本作中で)豚=暴食を象徴する悪魔」

みたいな読み方が得意な人はもっと深読みできると思います。

話は読みやすい本なのでお気軽に。