守られることの是非とか考える

評価: マーガレット アトウッド,Margaret Atwood 早川書房 ¥ 1,296 (2001-10-24)

 

暑い秋ってまじですか。

 

 

さて今回もSF。いわゆるディストピア小説です。

久しぶりですね。

ディストピア小説にも色々ありますが、

主人公以外はみんな幸せに感じているというよりは

登場人物みんながぐらぐらと不安定なタイプのディストピアです。

 

侍女の物語

マーガレット・アトウッド

斎藤英治

早川epi文庫

 

フェミニズムについてのお話、と言ったらいいのでしょうか。

1984的と言われるらしいけれどたしかに1984っぽい雰囲気です。

ディストピアの御多分に洩れずやっぱり戦時中で、舞台は北米。

出生率がなぜだか突然ガタ落ちして人口危機に陥った世界で、

突然キリスト教原理主義者たちがクーデターを起こし、結果合衆国を乗っ取ったという設定。

 

キリスト教原理主義というと

 

男性優位保守系・進化論否定・堕胎禁止

 

などの価値観を持っていることは有名で、

最近でも現実に医者が襲撃されたなんて話がニュースになります。

 

そんな人々が政権を奪取した世界なので、

亡命未遂は処刑・過去に堕胎させたことのある医師も処刑・姦通は処刑・異教徒も処刑です。

そして人口を増やすことが急務であるため、

女性を階層に分けて「妻とは別に妊娠可能な女性を地位の高い男性にあてがう」システムが公的に出来上がります。

この女性が「侍女」であり、本作の主人公というわけです。

妊娠出産が第一目的の公的な愛人です。

 

妻、女中、便利女、小母、侍女、不完全女性、そしてアングラの売春婦たち。

誰1人として自立することは認められておらず、財産も主人の物。教育も不要。

いくら男女平等ランキングが低いだなんだと言われても

この21世紀日本の方がマシなんてものではない……と思えるような統制っぷりです。

教育不要のレベルが「字は読めなくていい」ですからね。

大学教育って話じゃないですよ。

 

わが身に置き換えればうわー勘弁してくれーとなりますが、

一方で「人間って意外と『適応』出来てしまうしな……」とも思います。

 

かつての自由の味、

しかしもはや露出の多い格好を好ましく思えなくなった自分、

選択できることに恐怖するようになった自分、

いろんなものが不足しがちな生活、

吊るされる恐怖。

 

そんな中で揺れ動きながら、主人公は実に自分本位に生きていきます。

誰しもわが身が可愛いです。

この主人公のしたたかさが結構好き。

自分に許されることを慎重に見極めつつ、さっさと「役目」を終えてしまいたいと思ってる感じがします。

意地悪なところも黒いところも当然あります。

特に奥さんに対して。

この妻と愛人の緊張感がなかなかヒリついていてスリリングで読みどころの一つです。

主人公、実に人間です。

 

 

いろんな自由がなし崩し的に奪われていく中で

かつては夫子供とともにアメリカ脱出を試みた主人公ですが、

この夫というのも元々奥さんがいた人で、不倫状態だったところからの結婚でした。

 

母親はフェミニズム運動家だったようですが、

子供視点には自分を無視して仲間とずっとおしゃべりしていただけに見えました。

 

親友は口の悪いレズビアンで自由の象徴のような人でしたが、

最終的には逃亡に失敗して、コロニー行きよりは売春婦になることを選びました。

 

パートナーだった侍女は信者であるような振る舞いでしたが、

実は地下活動家の一員で、捜査の手が及ぶ前に自ら命を絶ちました。

 

 

色んな立場の女性たちの色んな生き方が仄暗く生き生きとしていました。

道徳ってなんでしょうね。

男性に支配されてああ女性はかわいそう……のように涙をにじませる話ではなく、

女性から自由を奪った男どもを許すな!!と拳を振り上げる話でもありません。

 

最終章にあるように一面から見れば確かに女系社会というか、

社会で働くのが男性に限定されるのですが、

身分の低い男性は子供を持つ権利はなく、

身分の高い男性は種馬的なところがあり、

家庭は妻の支配下だし、

何と言っても戦場へ行かねばならないし、

男性にとっても結構キッツイ社会であります。

 

背景が戦時下でしかも理由不明の出生率低下という状況なので、

外からはなんとでも言えるけれど中にいたらどう振る舞えたかなあ……

国が取りうる選択肢には何があるのかなあ……と考えてしまう作品でした。

 

「我々はギレアデ人を道徳的に批判することについては慎重になるべきだと思います。

 我々はそのような批判が文化特有のものにならざるを得ないことを学んでいるはずです。

 ……

 我々の仕事は非難することではなく、理解することです」

 

この一節は大事にしたいところだと思いました。