皆々様お元気ですか。緊急事態宣言解除されるところも出てきましたね。しかし油断せずに参りましょう。
さて今回の読書記録はこちら。
黒丸尚訳
ハヤカワ文庫
当たり前に改造される肉体、
データや知識を外部化したシリコンチップ、
貼り薬として頻繁に摂取される薬物、
電極を介した脳とコンピュータとの直接接続、
マトリックスとグリッドの走る無限の電脳空間、
依頼者でありながらなにやら企んでいるAI、
AI監視機関チューリング、
どうにも怪しい雰囲気がする巨大企業、
忍者(ニンジャ)……
そんなものに溢れた、およそサイバーパンクと言ってイメージするサイバーパンク小説。それもそのはずで、初出は1984年らしいのですが後書き解説によればここを起点に「サイバーパンク」なるジャンルが生まれたと言っていい作品だそうです。
主人公ケイスは電脳空間を股にかける伝説のハッカー(カウボーイ)……だったのだけれど、恐らくちょっとした気まぐれで依頼主の情報にちょっかいをかけ、その結果として仕事も名声も失い華やかな世界から追放されます。高い代償を支払って流れ着いた先は千葉市(チバシティ)。ここを起点に、このお話は始まります。
最先端技術と場末が共存する混沌とした無法地帯、チバ・シティ。
……笑わせるつもりは全くないと思うのだけどちょっと笑ってしまいます。なんででしょう。日本人としては「千葉?千葉なんだ?」っていう感覚になります。いやだから何ってことはないんですけど。東京と京都ぐらいしか認識されてないと思ってたら千葉か、みたいな。この本で描かれてる日本って恐らくなのですがジャパンアズナンバーワン!してた頃のイメージですね。
今回はその世界を想像するだけで結構いっぱいいっぱいになってしまった感覚があり、特に終盤に散りばめられた「歌」とか「事象」とか「真の名」とか(ファンタジーっぽいですね)とか怒りや憎むことの意味とか掴めておりません。世界の表面を追うので限界だったのですよ。主人公ケイスが電脳空間に入る「没入(ジャックイン)」は今だとVRの世界に入り込むのに近い感じかなあ。SF特有の造語の嵐と想像力の限界に挑んでくる描写、異世界を描いてるはずのファンタジーより飲み込むのにエネルギーが入ります。
でもこれは主張しておきたい。
それがいいのだ、と。
SF的「ガジェット」だけでもすごく面白いです。SFの面白さの一つはここにあると思います。未来のある世界線でどんなものが生まれ、どんな社会が構築されるのかを描写する道具たち一つ一つがおもちゃの様で楽しいです。あるいは電脳空間の果てのないイメージ。ICEに守られた情報たちが作る直線で構成された空間。ICEを破るウイルスたちとそのサイバー戦争の光景。一方で実働部隊としてあちらこちらの施設へ侵入するパートナー。
細えこたあいいんだよ!!!
まずは一度勢いで読破していただきたい。恐らく細えことまで描かれていますが読者の側は一旦全部拾おうとしなくていいです。全部拾ったら何ヶ月もかかる様な密度です。大事なのは文章のスピードに乗ることです。クローン殺人兵器忍者が出てくるんですよ。クローンだけどちゃんと名前がついてるんですよ。メインウェポンは竹弓。目が見えなくても「禅の力」で目標を仕留めることができます。どこのニンジャスレイヤーですか読んだことないけど。
社会が描かれているということは「こんな社会で人はどんな倫理観を持ちどう生きるのか」も来るのはお決まりなので、芯としてはそれが書かれているはずなのですが、この様な内的な部分が読めなかったということで……次回の課題ですね。構造取れる様にしないとな……リンダって何だったんだろうな………肉体あたりが鍵なんだが……
もちろん散発的に思うことは色々とあります。「そもそもウィンターミュートとニューロマンサーの間に何があったの!!」とか「リヴィエラの闇深え……」とか「フラットラインの仕事人っぷりがいい」とか「マエルクム男前」とか「ブラウン可愛い」とか。いやほんと、2つのAIの話は深掘りしたいです。ミュートは相方と心中するつもりなのかと思ったら最後に「おれはマトリックス、もろもろの総合体」とか言い出すし、どこまでが意図で予測でどこからが予想外なのか曖昧な感覚になります。君たちなんなの。
電脳世界と現実世界が入り組み絡まり合う舞台を堪能した一作でした。
いい加減ブレードランナーぐらいは見よう………