この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた - 大破局後、目指せ文明復興!

 近所のケーキ屋さんでアップルパイフェアやっていた。幸せ。

 

 

 さて今回は科学本。

 この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた

 ルイス・ダートル著 東郷えりか訳

 河出文庫

 

 最近アニメ化されたジャンプコミック「Dr. STONE」の元ネタみたいな本。この本は河出書房からのハードカバー版が2015年、文庫版が2018年に出ていて、最初にハードカバーが出た時に結構「これはいい本だ!」って話題になってたんですよね。なのでDr.STONEの作者も読んでるはず。サバイバル本というよりは人類の文明をいかに取り戻すかということにスポットが当てられています。

 Dr. STONEと違うのは、あれが今ある文明がほぼ消えるまで時間を未来に飛ばしているのに対して、この本は「今の状態から文明が維持できなくなるレベルまで人口が急に激減したら」という想定であることです。つまりしばらくは今あるものをかき集めて何とか生きていくことが可能です。というか真面目に考えると文明崩壊した3000年後に飛んだら食糧事情と衛生環境でほぼ詰みなので、その辺りは文明崩壊と言っても一番生きられそうなルートが想定されている訳です。

 

 漫画ならではの展開は漫画の方に任せるとして、本書は以下のような展開を辿ります。

 

1. 当面どうやって凌ぐか

2. 食糧生産をいかに早く再開するか、服はどうするか

3. 古典的な化学の利用法

4. レンガや金属といった材料の作成と利用法

5. 医療復興の難しさ

6. 動力の確保と発電方法の確立

7. エンジンの仕組み

8. 印刷と通信

9. 近年の応用有機・高分子化学への展開

10. 単位系の定め方

11. 総括ー科学的手法というマシン

 

 いくらいきなり3000年後ではないとはいえ、時が経つにつれて現在存在している人類の生産物は徐々に朽ちてゆきます。既存の設備が使えるうちにどこまで復興できるかが問題ですが、自然の力というのは驚異的なものがあり、人一人では田畑などあっという間に侵食されてしまいます。立ち上げ時にパワーがいる作業は機械が動く間に、維持は人力でできる範囲で……などと想像するのですが正直マンパワーどの程度確保できるかで難易度が全然変わってくる気はします。

 見渡す範囲に自分一人の場合、田畑復興を優先させるか、スーパーやホームセンターに立て籠るか、缶詰とキャンプ用品背負って他人を探しにいくかかなり迷うところですねこれは……性格出そうだよね……

 

 人類というのは不思議で、文化レベルの歩みを見ると「なぜそこまで作っておいてその先に行かないのだ?」ということがあったり、後知恵で「もっと短いルートで良いものできたよね」ということがあったりします。それ故に各テーマ、その基本的な仕組みと、現在のレベルで効率がいいと考えられる手法とを紹介しています。「石灰岩掘ってきて焼け」とか「まずボール盤作ろうか」とか言い出すので、「できるかw」と何度かツッコミを入れたくなりますが、まあ全てがネジ一本からボトムアップで出来ているので作れるっちゃ作れるんですよね原理的には。

 

 よく「今の文明が滅びたら、もう簡単に化石燃料は手にないらない」と言われます。手近なところは掘り尽くしていているからですね。動力・エンジン・あるいは素材確保のための燃料をどうするかというのはかなり切実な問題になるでしょう。この問題にも向き合っているのが好感持てました。結論として、当面は木炭が良いようです。その後にエタノールの利用が現実路線である模様です。炭焼きか……窯作るの大変そうですね……

 レンガ作りにしても鶏が先か卵が先かで、レンガ作りのための炉と耐熱煉瓦の発展の関係がよくわかんないんだな……この辺他の文献当たりたいところですね。

 

 しかし古典化学のくだりを読んでいると「文明レベルは初期条件依存」というどこかの誰かが言っていた言葉を思い出します。少なくとも近くで石灰岩が出る地質で、海が近く貝殻からカリを、海藻からヨウ素を、海水から塩素を入手できて……みたいな感じです。シミュレーションゲームでもそうらしいのですが。

 そもそも農業やるのに耕作地として利用できないような土地だともちろんNGだし。金属は、当面その辺のスクラップを回収してくるとしても。こうして考えると交易網の発展が重要になりますねぇ。資源って偏ってますからね。

 

 ここまでずっと技術の話をしてきましたが、技術の支えになり、また技術と相補的な存在であるのが科学です。長らく職人がノウハウの蓄積として持っていたものを数学として扱い、また技術に対して新しく可能性を提示するものでもあり、この宇宙を記述する尤もらしい仮説の集まり。世界との対話である科学の手法は、「知識を生み出す強力なマシンだ」と筆者は言います。

 人類は当面は生きることに必死になるでしょうが、行き当たりばったりでやるよりは、現在の科学で概ね正しかろうと分かっている数式を元にした方が効率は良さそうですし、色々早そうだな、とは漠然と思います。自然の探究そのものを目的とする活動を始めるにはある程度文明が戻ってからでないと難しいでしょう。しかしその手法、観察とフィードバックはまさに文明復興を駆動するでしょう。

 

 

 ちょっと前に「ゼロからトースターを作ってみた結果」という本を読んだことあるのですが、時々その内容を思い出すような内容でした。この世界は随分と複雑で、分業制で、人間のパワーの集積で成り立っているのでした。