進化したのか絶滅か

 

遠くから花火の音が聞こえる。

 

 

さて今夏の旅行のお供だったのがこれ。

 

幼年期の終り

アーサー・C・クラーク

福島正実

早川文庫

 

久しぶりにSFなのではなかろうか?と思ってレビューを見返したら本当に久しぶりでした。

クラークは「2001年宇宙の旅」の人。

映画にもなったあの本です。モノリスとかHALが出てくるやつ。

その著者が書いた、これも古典ですね。

 

 

ときは米ソ冷戦の頃、

人類史上初のロケットが今まさに完成しようとしていたまさにその時、

空から高度な知的生命体が来襲してあっという間に人類をコントロール下におきました。

 

 

そんな始まりをするこの本。

ファーストインパクトが大きいですが、

登場人物と同じく口開けて唖然と空を見ている間に物語は進んでしまいます。

 

私個人も常々「宇宙人が地球まできたらその時点で科学レベル的に勝てない」と思っているわけですが、

まさにその通りの展開となり社会は「上帝(オーバーロード)」の独裁体制となります。

とはいえこのオーバーロードの施策はかなり緩やかで、

戦争を終わらせ貧困を解消し差別的統治を根絶させ……など

昨今世界に蔓延する人類の悪習を廃止した後は好き勝手させてます。

 

善良なる独裁者です。

 

怒らせると都市を丸ごとピンポイントで日陰にしたりしますが。

 

いや絶対勝てないじゃん…………

 

一方で生活は改善するし労働も不要になるので、

人類は「目的も姿形も不明だけど悪いやつではないっぽい」となし崩し的に受け入れていくことになります。

もちろん「人類に自治を!」「信用ならん」というカウンター的な動きは出てくるのですが、

オーバーロード側が綺麗に無視を決め込むためグダグダに終わります。

相手にされてない感じがすごい。

人類小さい。

 

個人的にはこのオーバーロードによる統治と技術提供を受けた人類のリアクションが面白かったです。

 

この本のクライマックスはオーバーロードの目的開示パートと

オーバーロードよりオーバーな「上霊(オーバーマインド)」に進化人類が吸収される情景でしょう。

知ってます。

ほんとうに情景描写はすごいです。

オーバーマインドとオーバーロードの意思疎通法がまた壮大で綺麗ですし、

進化人類の別物感には困惑と悲しみを覚えます。

でも個人的にはオーバーマインドの語が出る前のほうが好きです。

 

 

オーバーロードの援助(?)を受けてユートピア生活を満喫する人類。

超科学によって「過去が見えるカメラ」みたいなものまで登場し、政治宗教社会が激変します。

個々人にとっては、働かずとも衣食住が保障されている世界が到来しました。

人類総生活保護。総ベーシックインカム

趣味に没頭するもよし、自然科学をするもよし、スポーツもよし、

芸術の道を行くもよし、パーティーに明け暮れてもよし……

 

 

自分ならどうするかなあ。

いきなり365日が暇になるわけですよ。

科学レベルが飛躍的に進化した世で、究極的に自由。

 

あっちこっち放浪するかもなあ。

どこいっても科学レベルは一緒だけれどコミュニティごとの特色はあるようですし、

地球が真っ平らになったわけでもないから景色はいろいろ見られるだろうし。

基本的には科学の力を使って楽に移動しながら、

たまにはアナログな方法で。

 

でも割とダラダラしそうですよね。

ダラダラに飽きたらちょっと活動して、みたいな感じになりそうです。

作品内では緩やかな社会だけど人類は怠惰にならなかったという設定でしたが、

そんなみんな勤勉に生きられるものでしょうか。

実際こうなると………どうかなあ。

オーバーロード様が見ている以上悪いことはできないので、その点はいいですね。

治安がいいのは良いことですね。

独裁であってもね。

 

 

でもオーバーロードの人類懐柔のやり方がなーどうも気にくわないんだよなー!

 

 

特に人類を完全に手懐けてから姿を見せる行が

人類のこと良くわかっててだからこそ巧妙だしでも「分かってますよ」感が腹たつんだよなー!!

そうだよその通りだよ!!

 

でもでも私は小市民なので便利さと快適さに負けます。

間違いない。

絶対抵抗運動とかできない。

 

 

だからこそ、

国連総長を攫うレジスタンスとか

一目その姿を見てやろうとするその国連総長とか

宇宙を夢見て母星まで付いていってやろうとする青年ジャンが小気味いいです。

その手があったか!みたいな。

どうしても小物感は否めませんけど、一矢報いたる!って感じです。

オーバーロードには見透かされてますよね絶対。

ジャンはウラシマ効果で人類の結末を見届ける役どころにもなっていて上手い仕掛けだなーとも思いました。  

 

オーバーロードが「人類は進化の余地があって羨ましい」なんて途中で言い出しますが、

結末見ると「……進化?」とどうしても首を傾げます。

どう考えても地球人類滅んでるじゃないですか。

しかも子供達を取られて悲嘆にくれながら滅びるわけじゃないですか。

 

進化人類と地球人類ってまるで別物で断絶してるので、

なんか羨ましがられても困ると言いますか、

「進化ってそういうものじゃないよね普通」と言ってやりたくなります。

オーバーロード視点ではこれこそが進化なのかもしれませんが。

そんなにオーバーマインドに吸収されたいのでしょうか。

幸せに思えってなかなかきつい価値観の差だと思います。

完全に飼われてますからね人類。

得体が知れなさすぎて不気味ですよオーバーマインド……群体っぽい………

 

 

オーバーロードの外見は悪魔そのもので、

やっていることはまるで神様で、

しかしオーバーロードにも神様がいる。

御使は神様に憧れてる悪魔だったんですかね?

 

 

はいこの辺りで読書メモ終了。

次は何読もうかしら。

読みかけの本があるからそれかな。