2020年ノーベル賞、出揃う

 台風がすごい角度で曲がっていきましたね。

 

 さて昨日ノーベル経済学賞発表され、2020年のノーベル賞が全て出揃いました。例によって当ブログの関心は科学系3賞にあるわけですが、一旦全てを並べてみましょう。

 

 ●生理学・医学賞 
 「C型肝炎ウイルスの発見」
 ハーベイ・オルター(米) マイケル・ホートン(加) チャールズ・ライス(米)

 ●物理学賞 
 「宇宙で最も特異的な現象の1つである、ブラックホールについての発見」
 ロジャー・ペンローズ(英) ラインハルト・ゲンツェル(独) アンドレア・ゲッズ(米)

 ●化学賞
 「ゲノム編集手段の発展」
 エマニュエル・シャルパンティエ(仏) ジェニファー・ダウドナ(米)

 ●文学賞
 ルイーズ・グリュック(米)

 ●平和賞
 世界食糧計画

 ●経済学賞
 「オークション理論の改善と新しいオークション形式の発明」
 ポール・ミルグロム(米) ロバート・ウィルソン(米)

 

 文学賞アメリカの詩人の方。邦訳の本が1冊もないようで、いつも関連書籍や著書を嬉々として宣伝する各出版社がだんまりになるという珍しい光景がtwitterで見られました。詩は訳すの難しいから訳せる人も少なそうですねえ……。
 唯一見つかるのは北海道武蔵女子短期大学の元教授、木村淳子氏が訳と解説をしたもので、大学紀要によせたものが1本、同人誌?に掲載したものが2本あるだけです。後者は手に入れるのがひじょーーーに大変そう……「Aurora-オーロラ-」というらしいですが、ざっと調べた感じでもう休刊してまして……そもそも同人誌だし……前者はネットにPDFで転がってますので興味ある方は「グリック 木村淳子」あたりでググってみてください。
 木村氏のインタビューはこちら↓ 翻訳依頼きてそうだな……唯一すぐにできそうな人だもん……「普通の人の心の動きを静かに描いた」詩らしいです。

www.hokkaido-np.co.jp

 

 平和賞はなぜだかトランプ大統領という名前が下馬評で上がり、まあ中東関係では結構頑張っているのですが流石にイメージ悪すぎん?大統領選前だし?と思っていたら全く政治色のないところから来た感じです。

 経済学賞の「オークション理論」については何もわからないのですが、どうもオークションを開きにくい産業分野というのがあるらしく、それを適切にやるための理論だとか。電波の割り当て問題が例として上がっていますね。こういう理論っぽい話には興味あるので読み物的な本がないかなーと探しております。

 

 で。

 

 物理学賞ですよ!!!!!!おまえ去年系外惑星で順当に行けば今年は物性分野受賞年だろ!!!!!!!
 なんですかブラックホールってありがとうございます好物です!!!!!!

 

 えー、この3人は等分ではなく、半分がペンローズ氏でもう半分がゲンツェル氏・ゲッズ氏コンビという分け方みたいです。まだ生きてたんだペンローズ
 ペンローズアインシュタイン一般相対性理論からブラックホールの存在を数学的に予測したこと、ゲンツェル氏ゲッズ氏は私たちの銀河系の中心部に超大質量なブラックホールがあることを発見したことに対する評価。
 ペンローズの研究は「特異点定理」なんて名前で呼ばれていて、ちょっと前に亡くなったホーキングとの共同研究なので、「ホーキングが生きていればなあ‥‥」というところです。
 ペンローズは物理学者であり数学者でもあり、いろんな分野に名前残してる人で、例えば

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                             (wikipediaより)

 こんなトリックアートでよく見る不可能図形を考えたり、パターンがありそうでないタイルの敷き詰めを考えたりしたことでも有名です。いろいろやってるので「あのペンローズで合ってる?」というフレーズが聞こえてきました。まあ超のつく天才です。妙な脳科学理論にハマってしまって……という話も聞きますが………うん………

 ゲンツェルとゲッズが見つけた巨大ブラックホールは「いて座A*」と呼ばれているものです。ブラックホールは基本的には「見え」ませんが、周りにある恒星の動きを観測して、「こんな動きをするということは、ここにどでかい質量のブラックホールがある!」という発見をされた方たち。このブラックホールは「相対論の実験場」なんて呼ばれてるぐらい今でも色んな発見がなされているところで、最近だとこんな↓風に、ブラックホールの周りを回ってるガスが「瞬く」様子が観測されたりしています。

www.nao.ac.jp

 

 

 生理学・医学賞は、もうとても分かりやすく人類に貢献している分野から。昨今の新型コロナを意識してるんですかねえ。C型肝炎もウイルスによる感染症です。昔B型肝炎ノーベル賞をとっているので、というのもありそうです。
 オルターはA型ともB型とも違うウイルス性肝炎があることを発見したこと、ホートンはこの新しいウイルスの作ったタンパク質を、後にゲノムを取り出すことに初めて成功して診断ができるようにしたこと、ライスはC型肝炎がまさにそのウイルスのみによって引き起こることを突き止めウイルスを増殖させる技術を作ったことが、それぞれ評価されているようです。

 このウイルス増殖技術については日本人が噛んでいて、今まさにコロナ騒動で忙しい最中である国立感染研究所の脇田氏もこの研究をされていました。私にはなんでかまでは分からないのですが、どうもこのC型肝炎ウイルス、増やすのがなーーかなかに難しいらしく、「増やしやすいC型ウイルス」というのを開発したのが脇田氏らで一つのブレイクスルーになった模様です。

 

 化学賞は化学賞でたまにあるほぼ生理学賞分野の化学賞でした。生化学わっかんない!!ゲノム編集って何!!!
 受賞理由としては、遺伝子配列の欲しいところでDNAを切断するための手法、「はさみ」を開発した功績に対して、ということのようです。

 DNAは切れても修復しますが、この修復される時にうっかり配列が一個増えたり逆に減ったりする、という現象を利用するのが編集のやりかた。また入れたい配列の断片を入れておくと切った後に入れたいものが組み込まれてくれることもあります。元々はウイルスの遺伝子情報を記憶するために細胞が持ってる機能を人間が利用している形。
 これがCRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)という手法で、これによって遺伝子操作の効率が爆発的に上がったらしいです。Cas9がタンパク質で、ハサミにあたる部分です。どこで切るか、というのを決めるのがガイドRNAと呼ばれている部分で、ここは設計可能です。ガイドRNAがピタッとハマってくれるところでCas9が切る。狙ってきれるようになったというのが大きかった、のかな?
 それにしてもうまいこと設計したものです。いやあ王道の生化学ですね。こういう「巧みさ」が見えるのが生化学の醍醐味な気がします。

 

 

 ということで、今年は驚きのブラックホール物理学賞でした。

 授賞式やるそうなんですが、受賞者は出席しない形でやるらしいです。当然晩餐会もなしです。……それ何のためにやるんだ?

 以上!今年のノーベル賞でした。