ベースボールについて。

 

梅雨とも思えぬ暑さが続いていますが皆様お元気でしょうか。

あつい。

 

さてご無沙汰してましたがお久しぶりです円城塔

 

オブ・ザ・ベースボール

円城塔

文春文庫

 

円城のデビュー作の1つであるらしい。

もうひとつはSelf-Reference Engine

同時期に書かれていて、EngineのほうがSF、こっちが純文学、という事になるらしい。

そういうのは良く分からないけれど、

読みごこちは「あー円城ですわー」というところ。

思わず呟きたい日本語。

 

 

空から人が降ってくる。

 

比喩表現でもなんでもなく、

大体1年に1回のペースで、

主人公が居る街には老若男女問わず、人が降る。

僅かなお店、その他は麦畑の何もない街。

道は南北に一本、川がそれと直行して東西に流れる。

街の名前はファウルズ。

 

年に一度降る人を救出すべく、

街には9人からなるレスキューチームがあって、

主人公もそこに所属しているが、

支給されるのはユニホームとバットであってマットではない。

主人公は日々走り込みをし、素振りをし、

後は空を見上げながら日々を送る。

 

もうこの時点で突っ込みどころ満載。

何だこの世界は。

不条理か。

いや道筋か成り立たないどころの話かこれ。

ギャグか。

 

しかも恐らく100年以上に渡って存在しているチームは、

これまでに一度も降ってくる人の救助に成功した事はない。

何もない街とはいえ、9人で守りきるのは無理があり、

どうやら毎年人が落ちてはミンチになっているらしい。

落ちてくるのは道と川の交差点が多いのだが、

あくまで平均値であって、

大体年に一回、大体交差点目がけて落ちてくるものに対して

交差点だけ見て居れば良いというのは当たらないだろう。

それはわかる。

分かるがしかし、

追いついてみたところで持ってるものがバットなんだよ。

ミットですらないよ。

どうすんねん。

という読み手の突っ込みは、

「誰も間に合った事がないんだからその先の事は知らん」

というあんまりな一言で一蹴される。

あーあーもうどうしようにもない。

 

しかしオチは読めるというか当然で、

なにせ持っているものはバットで、

レスキューチームは全員バッターなのだから、

フルスイングで打ち返す事が救助だ。

彼らは決してベースボールチームではない。

 

空から人が降ってくる。

 

この世のものに光速は超えられない。

時間と空間が絡まってるのが現代物理学だ。

切り取られたはずの時間のなかに主人公は突っ込んでいく。

己の限界を超えて走った先に、

主人公と落下者の時間が交錯する。

 

オールライト。

全てが正しく間違っている。

ファウル。

 

はっきり言って無茶苦茶なんだが、

この無茶苦茶加減が円城ですわー。

主人公は未来の己を打ち殺した後に

落下の原因を探す旅に出る。

自分が落下するまでの道のりを、ノートを持って歩き出す。

オールライト。カモン。

 

私が掴めていないのはクリス・ラントンで、

ちょっとググってみるとクリストファー・ラングトンが元だこれ。

計算機学者で、カオス理論の研究者で、人工生命の人。

シミュレーションで生物の増殖と滅亡の様を描き出した人。

 

そのシミュレーションのための計算モデルが「セル・オートマン」というもので、

規則に従ってセルを白か黒かで塗る。

規則というのは

「黒のセルのうち、隣接するセルの4つ以上が黒ならば、そのセルは次に白で塗る」

というようなもので、次、次、と時間軸が生まれ「世代」が生じる。

セルの白を死、黒を生といって、誕生と死滅を繰り返す。

初期条件次第でセルの形の変化が繰り返しパターンにハマったり(生存)、

逆に消えて滅亡する。

 

そのなかで、パターンを繰り返しながら移動していくのが「グライダー」だ。

セル・オートマンのうちの生存のひとつ。

そしてそのグライダーを無限に生み出し続ける事が出来るのが「グライダー銃」だ。

グライダーはくるくると回りながら無限の彼方へ落ちていく。

グライダー銃はグライダーを生み出し続ける。繁殖する。

 

と、ここまでの背景知識普通持たねえだろっていう(苦笑

ここまで調べてやーっとグライダーこそが生命だ、に繋がってくる。

ちゃんと知りたい方はライフゲームあたりでお調べください……

ここの行、ちょっと唐突な感じがするんだけれど、

円城のバックグラウンド考えると

ここから出発してるんやろなあ……

 

 

 

心地のいい本でした。

「つぎの著者へ続く」?

わからん!