ペンローズのねじれた四次元 ー ペンローズの描く宇宙を覗き見る

  自主規制なんて土台無理だったんですよ、というとことがわかりつつある昨今、みなさまいかがお過ごしですか?

 

 さて今回読んだのはまたもやブルーバックスから。 

 ペンローズのねじれた四次元 時空はいかにして生まれたのか 増補新版
 竹内薫 著
 講談社ブルーバックス

 

 今年のノーベル物理学賞受賞者の一人、ロジャー・ペンローズ。その受賞功績は「特異点定理」というブラックホール理論についての研究に対するものでした。
 このペンローズという人がまあ天才の中の天才で、数学でも物理でも多大な功績を残した人です。対称性のないタイル模様で敷き詰められた床、無限に登れる階段、実現し得ない三角形の枠………多分一度は見たことのある図形かと思います。

 

 そんなペンローズが主に宇宙物理=量子力学の分野でどんなことを言ったのか、というのをできるだけ日本語で書いたのがこの本です。ペンローズの業績についての本で、その為人について書いた伝記系ではありません。

 立方体がローレンツ収縮を起こすと外から見たら回転したように背面が見える、

 一方で球の見え方は変わらない、

 ブラックホールの記述方式としてペンローズ図を発明した、

 一般相対性理論から必然的にブラックホールの存在が導かれる、

 実在論に基づいた波動関数波束の収縮問題への取り組み、

 時空を量子的重ね合わせとして記述する方法、

 スピンネットワークとその発展形のツイスター構造の提案…… 


 改めてこうやって並べると、ペンローズが大方カタがついていると思われていた相対論を「いや分かってないよね?」と見直し、未完成であると考えていた量子論を推し進め、スピンが絡まり合うネットワークから生まれる宇宙を描画したという事実に圧倒されます。
 波動関数収縮問題……要は「ミクロとマクロの境はどこか」という問題については各学者の持っている哲学の部分がかなり大きく影響している様もわかりました。実在論vs実証論のせめぎ合いがあるんですね。物理界隈の主流は実証論であるようですがペンローズ実在論側で、何かが「在る」ときそれは本当に「在る」もので、波動関数がどうなっているかというのが大事になってくる、という。
 自分も見えないものはどうでもいいしどうしようにもないというのは感覚的にはよく分かります。実在論者、大変そうだな……なんて思うと同時に「そこって大事か?使えれば良くない?詰めるべきポイントなの?」と感じてしまうのですが、宇宙の姿を描写することを考えている人たちにとってしてみれば立ち向かうべき課題なのでしょうねぇ。

 

 ペンローズの業績を辿りながら本書の最後に現れるのが「ツイスター」です。光から左回りに旋回しながら見た宇宙がどうなっているのか、というのを描いたものだそうです。わかんないけどすごそうだな?
 ツイスターは無数の入れ子になったドーナッツの各表面に絡まり合った無数のループが絡んでおり、ループの各点から光が放出されて柱のようになった……
 そんなことを言われると想像力が限界に来るわけですが、なんだか凄まじさを感じるのは筆の力でしょうか。アインシュタインから百年、宇宙の主役である光から見た宇宙の姿は、果たしてこの通りなのでしょうか。

 

 量子力学、そして重力を統合する量子重力論ってやっぱり面白いしペンローズの化け物っぷりを感じることができて良い本でした。

 

 ただね。
 個人的にはね。

 ちょっと語り口が合わなかったかなーーーー!!!

 

 著者が出てき過ぎる感じがするんですよ……ううん………癖が強い………

 あとメインターゲットがいまいち不明というか、平易に書こうとしてる雰囲気はあるのですが使ってる言葉が分かる人向けっていうか……大学物理系学部の学部生が読んだら読みやすいんじゃないかなあとは思うので、そこでしょうか。化学系卒には辛かった。


 しかし一方で、例えばこの手の本おなじみ光円錐についての記述を「現在この場所を起点に情報が伝わる、その最速は光であり…形状が円錐であることから光円錐と呼ぶ」とやるだけではなくて、もう一歩詳しく、そして踏み込んだ解説をしてくれます。これは大変にありがたい。意外と出会ってこなかったですねこの解説深度の本。
 教科書に手を出すほどではないにせよ「こういう世界に繋がってるんですよ」というガイドとしてはとてもよく、いや最後の方でかなり数式なしで語るのが辛そうな様子は伝わってくるのですが、いくつかキーワードは拾えましたので、今後重宝しそうな本でした。

 ……いやほんと、苦手ポイントが喋り方だけなんですよ……………