時間は存在しない - この世界の基本方程式とわたしたち

 Covid19のせいで 一切の予定がないGWが到来。だらだらしていれば過ぎてしまう気もしますので過去の旅行写真の整理でもしますかね。

 

 こんばんは。国の緊急事態宣言発出からちょうど3週間。毎週末暇を持て余している割に、本も読み進まなかったなーという感じです。いやほんと何してたんだろうな?

 

 そんな中で読んだのがこの本。

時間は存在しない

時間は存在しない

 

 

 時間は存在しない

 カルロ・ロヴェッリ著 冨永星訳

 NHK出版

 

 一般向け物理読本。最近歴史がらみの話ばかり読んでたから解説本は久しぶりかもしれません。正直にいうと、帯の「円城塔氏推薦」に釣られました。

 

 全体的に言葉の運びがお洒落。

 なんていうんでしょう、表現しづらいのですけど、例えば「二人の人間がいて」ではなくて「二人の友が袂を分かち」って書くあたりとか、言葉の端端が詩的なんですよ。もちろん訳者の腕もあるでしょうが、著者は一般書書くのこなれてるな?

 

 内容はタイトル通り、「この世界の基本的な物理法則を表す式に時間の変数は存在しない」という主張が根底にあります。3部構成ですが、まずこれまでの現代物理が時間について知っていることが展開され、「時間の性質だと思っていたもの」を悉く剥ぎ取った後に「それでは今時間について言えることは何なのか?」が確認され、最後に普段我々が認識している時間とはどのように生まれるのか、が提示されます。

 ラストは完全に哲学分野まで踏み込んで議論が行われてますが、そもそも古代インドまで遡って我々がどのように時間を捉え議論してきたかというところからこの本は始まるのでさもありなんといったところでしょうか。「時間」とか「宇宙」がテーマだとどうしてもこうなるよね。だから好きなんですけど。

 

 個人的には第1部の「時間の崩壊」からとても興奮するような内容でした。特に時間の持つ方向性のあたりから。過去と未来が物理の世界に存在しないって本当に?と言いたくなりますが、しないらしいです。時間はこの宇宙の本質ではない。

 しかし覆水は盆に帰らず、熱々のスープは必ず冷め、ボールが弾み続ける事はなく、地球上には過去の事象の痕跡がそこかしこみられ、私は、そう私は、確かに昨日のことは憶えており、明日の事は知らない。これは一体何なのでしょうか?

 

 エントロピー、が一つの重大なキーになってきます。

 

 逆に、エントロピーが、熱が絡まない場面では時間の向きに必然性はないという事らしいです。

 エントロピー何もわからんぞ!!

 あれって統計なんですよええ。ある熱を持つ物体を原子レベルで見た時に、激しく動いている原子がこのくらい居て中くらいのがそれだけ居て……と個々の原子ではなくて物体全体の分布としてみた時に持っている熱とその温度は……とかやる時に出てくる量です。ボルツマン分布。

 繰り返し出てくる「人間の視点から見た時のぼやけ」というのはこういうことで、ざくっと扱うんですよね。1個ずつの原子にしてみたらどんな速度で動いてようがただそれだけの話なのですが、3つあると「速い×3」なのか「速い真ん中遅い」なのかに意味が出てくる、巨視的に見るからこそ生まれてくる量。

 

 本書の中に出てくる唯一の数式、ΔS≧0。

 これが、まさに唯一時間の方向性を決めているものである、そうです。まあ宇宙からしてみたら人間の視点なんか知らんがな、というのも何となくわからんでもないのです。

 もちろん過去も未来もなければ現在も怪しくなってきて……と次の章に突入するわけで、この辺から直感とのズレが大きくなってくるので置いてかれている感じが出てきます。物理畑の人が読むともうちょっとついていけるのかな。置いてかれてるぐらいが楽しいのでいいのですが。

 

 が。

 

 置いてかれるにも限度ってもんがありまして……これ9章10章ついてける人どのくらいいるの……いや慣れもあるとは思うんですねど………実際著者もあまりついてこさせる気がなくて、「読み飛ばしていいよ」なんて書いてあります。そう書かれると読みたくなるのですが、当然の如くさっぱりでしたね。

 

 現代素粒子論の概略図みたいなものがあればより分かりやすいのかもしれませんが、本文中にも途中書かれるようにこの分野まだまだ議論中です。なので後半ほど著者の持論の色が濃くなってきます。多分2部以降は著者の推す理論(ループ理論)がかなり濃いんじゃないかな。3部に至っては大胆な仮説で斬新なアイデアなのだろうと思います。ループ理論と超弦理論の位置関係とかフォローしときたくなります。あと訳者後書きは頼りになります。この本のまとめになってるので。

 

 

 日常の感覚とのズレを放っておかず、懸命に説明を試みる姿勢が最初から最後まで絶える事なく見られます。この宇宙はどうなっているのか、私たちが感じている「これ」は何なのか。その両方に答えを出そうとするチャレンジングな本でした。

 やっぱり宇宙論っていいなーーーーー!!