円周率πの世界 - 人はいかにして円周率を求めてきたか?

 明日紅葉でも見にいくかーとリュックサックにコンビニご飯とお茶、デジカメ、念のためにカッパを詰め込んで目覚まし時計をセットした翌朝、寒くてベッドから抜け出せなかったのが今年の秋の思い出です。怠惰にも程があるんじゃないかと自分でも思います。

 

 

 こんばんは。思い出がロクでもない。

 

 さてブルーバックスの軽めの一冊です。

 円周率πの世界 数学を進化させた「魅惑の数」のすべて
 柳谷晃
 講談社ブルーバックス

 

 どれだけ数学が嫌いでも苦手でも知らない人はいないであろう円周率π。算数を習っていく中で初めて登場する非循環無限小数であり、あくまで3.14は近似であることも知らない人はいないでしょう。3.141592………と何桁覚えられるか競ったり語呂合わせを考えたりしたことがある人もいるはず。
 そもそも円周率は
     「l = 2πr」
の公式で有名な通り、「円周lは直径2rの何倍の長さか」というのを表した数です。ほとんど同時に習う面積を求める公式
     「S = πr^2」
に出てくる数としてもお馴染み。あるいは以前はやった「博士の愛した数式」に登場する
     「e^iπ + 1 = 0」
を覚えている方もいるかもしれません。

 

 円周率を「半径ではなく直径で定義してしまったのは数学史上最大の誤り」という人もいますがそれは横に置いておくとして、この本はそんなπの近似値を人類がどうやって求めてきたかをさらった本です。

 冒頭に「必要な近似の精度は各文明ごとの円周率の用途によるから正確ならいいというものでもない」ということが書かれており、πの精度が高いからといって文明レベルが高いとかそういうことではないという釘が強めに刺されます。

 

 んですが………

 

 なんというかですねえ………著者自身が「こんないい値を計算できている!すごい!」という感覚から逃れられている感じがしなくてですねえ………
 もちろんズレの大きい数値を使っていた文明をこき下ろすことは決してしないのですが、最初のあれなんだったんよと思わんでもないです。

 

 この本によれば歴史の結構長い期間、アルキメデスが紀元前250年に考案した方法によってπの近似値の算出がされていたようです。
 どうやっていたかというと、まず円の内側から多角形をはめて、頂点の数を倍々に増やしながら多角系の周の長さを逐次求めていく手法です。正六角形(= 3)からスタートします。
 とにかく頂点の数を増やせば増やすほど正確さは上がっていくわけですが、多角形の近似があんまりいい(円に近い)近似ではないのと、順番に計算していく必要があるせいで計算負荷がめちゃくちゃ高かったという点です。 

 

 しかしその後ヴィエトの式、連分数の登場、そしてなにより無限級数微分積分の登場によって、原理的にはどこまでも………計算資源が許す限りどこまでも………正確な値が出せるようになりました。
 いやそれにしても微分積分のパワーすごいですね。表現手法の開発というか、概念の開発というか、「こうやって書けるじゃん?」っていうやり方が見つかるとその分野ってゴリゴリ進歩するんですね。ニュートンライプニッツも偉大だわ。

 桁数競争は現代ではもちろんコンピュータの独壇場で、31兆桁まできているそうです。ちょっと意味わからん数字ですね。そんなに求めてどうすんだという話ですが、まあいいんじゃないですかロマンですよロマン。

 

 使いやすい近似式を求める流れの一方で、πの性質を探る動きにも一章分で触れられており、こちらでは冒頭にも書いた「e^iπ = -1」へオイラーの式から迫っていく流れ、πが超越数であることの発見経緯などが書かれていました。
 一瞬数学特有の定理の台詞回しを読む必要がありますがこちらもなかなか面白かったです。定理が一歩一歩拡張されていったり別系統のとドッキングしたりする様子っておっていて楽しいです。「なるほどーーー!」っていう快感があります。

 

 

 この本の悪い癖として話がとっ散らかりやすいというか「あの話どこいった?」「えっその話にここで戻るの?」「章とタイトルとか見出しとか本文とあってる??」といった絶妙な読みにくさがありますが(特に微積編より前)、人がπを追い回してきた軌跡を見ることができる本でした。