ビールの科学 - ビール好きのビール好きによるビール好きのためのビール本

 えーーーー

 

 ご無沙汰しております。オミクロン株が猛威を振るってますが生きてますか。旅行に行けず、結果一月何も書くことがなくて、当ブログにおける旅行コンテンツの比重の大きさを感じております。そのうち初詣にでも行きます。2月だけど。

 

 さてそんな間にあれこれ本を齧っては別の本へ移りという行為を繰り返していたのですが久しぶりに一冊読み切ったので感想書いてみます。

 

   カラー版 ビールの科学 麦芽とホップが生み出す「旨さ」の秘密
   渡 淳二
   講談社ブルーバックス

 

 ビール飲めないのにこんなビール本を読んでみました。
 ブルーバックスって「〇〇の科学」というタイトルの本をたくさん出しているのですが、その中の代表作と言っていい本がこれ。元の本は2009年に出ていたのですが最近増補改訂版が出ました。「カラー版」とあるように内容の更新にとどまらずビジュアル面もグレードアップしたようで、人気の程が伺えます。

 著者は元サッポロビールの人。あとがきで謝辞を述べられている相手もサッポロビールの人。………ビールの広報?と思いつつ読んだのですが、これが結構なかなか面白かったです。

 

 中身はタイトルから予測されるように、言ってしまえばビールの原料と製造方法、美味しさの成分とその評価方法、簡単な分類、ビールの歴史と世界各地のビールの紹介といったところがメインなのですが、
 著者のテンションが終始やや高めなのと、初っ端の「ビールQ&A」や間に挟まれる「国内の酒税法がらみのビール系飲料の話」や「美味しいビールの飲み方」で読みやすい構成になっているのが読んでて楽しい本である理由であるように思えます。

 

 いやその、ビールの科学本を書こうと思った時、普通に考えたら簡単な歴史の序章をいれつつ一章の頭で分類紹介をしてから材料と製造方法にさっさと移るような書き方になりそうなもんじゃないですか。
 そこに「よくあるQ&A」を持ってくるのあんまりみない話の仕方で新鮮でした。ある意味欲しい情報がなかなか来ないのですが、ここは気軽に読んで先へ進むのが良いと思います。

 前に解説済みのことを適宜再度説明したり、巻末に索引がついているところも合わせてどこからでも読みやすく、振り返りもしやすいように作ってあるなーという感じです。

 

 科学パートはどこも「へえぇ」と思いながら読んだのですが、泡が立つ仕組みの部分が一番「へえぇ」でした。泡が立つということは界面活性剤成分がどこかに含まれているのかと思ってましたが、単一の成分ではなく麦芽のタンパク質とホップのイソアルファ酸が相互作用して界面活性剤様に働いているらしいです。もちろん後から分かったことですが、うまいことできてるな。

 ビール酵母についてのパートも良かったですね。生物学まるでわからん人間なので。そもそも発酵プロセスは酵母にとっては嫌気条件の時自分の生存のために回す苦渋の回路であるそうです。酵母も普通に酸素で呼吸したほうが効率良く生きられるらしい。

 全ての酒は酵母の苦しみによって生まれているのだな……。
 人間にもその回路搭載できんかな……。

 またビール作りの主役はビール酵母であり、ビール作りは酵母のお手伝い、みたいなことも書かれていました。宥めすかして発酵してもらうんだろうなあと研究員や現場の人々の苦労が偲ばれますw 生物を相手にするのは大変です。

 歴史パートで笑ったのは、大麦に合わせるフレーバー部分がホップに決まるより前、いろんなハーブやスパイスが使われていたのですが、その中でなんと向精神性の薬草を使っていたことがある様なのです。アルコールにベラドンナ……やばい………
 そのまま使い続けていたらビールごと薬物認定されかねなかったと思うので、ホップが主流になって良かったですね。ホップになった経緯はよく分かっていないそうなのですが、実際規制されそうなとこまで行ったのかな。ありうるよな。

 

 だいたいどこ読んでも面白かったこの一冊ですが、公報っぽさが皆無かというとそうではありません。特に酒税法や健康効果のあたりは「これはポジショントークかなー」と感じます。

 酒税法絡みの話、つまり発泡酒や第3のビールが好調であることについて、「使える材料が増えて味が変わりむしろその味が受けている」という評をしていて、この部分は「それはどうかなー?」という気持ちになりました。やっぱり日本人にとってみれば「ビールはあの味である(それ以外はニセモノ)」という感覚がある人が多いんじゃないかなあと。
 しかし第3のビールが出てきてから結構経ってるので、「ビールといえば」という感覚が強くない人も増えてくるだろうとも思われます。「麦の炭酸酒」のバリエーションは今後増えていくのかもしれませんね。酒税も今後統一されていくことが決まっているので、お酒売り場の光景も移ろっていくのでしょう。

 

 

 本書の最後の方は「ビールに合う料理」「ビールを使った料理」「ビール旅行」などで、著者がただひたすらおすすめを語っている部分ということもあり、ビールを飲まない自分でもお腹が空いてくる書きっぷり。

 著者は本当にビールが好きなんだなあ、という印象が残りました。ビール大好きな方もそうでない方も、著者のビール愛に浸ってみては。