世界史を変えた新素材 - 素材が広げた人間の可能性

 荒れた机の上を、じっと見つめてみる。

 大きなモニターのパソコン、に、追いやられて隅で小さくしているテレビ、百均の丈夫なマグカップ、いつも会社に持っていく水筒、ウエットティッシュと箱ティッシュ、これまた百均の鉛筆立てと薬入れ、そしてノート。

 ざっと見渡して、こんな感じです。そこまで変わったものは置いていないですね。それではここでもう一段、これらは何でできているのか考えてみよう。そしてどんな使われ方をしてきたのか、歴史を見てみようーーー

 

世界史を変えた新素材 (新潮選書)

世界史を変えた新素材 (新潮選書)

  • 作者:佐藤 健太郎
  • 発売日: 2018/10/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 世界史を変えた新素材

 新潮選書

 佐藤健太郎

 

 化学系ライターではおなじみ佐藤健太郎氏の本。前回は確か「すごい分子」を読んだのだったと思いますが、文体も内容も柔らかくてとっつきやすいライターさんです。新潮選書からは「炭素文明論」が出ていますが、本書はそれの拡張版といった趣。ここでの新素材とは世界史・人類史の中での新素材で、「これがなければ人類は発展し得なかった、歴史は前へと進まなかった」という材料たちが紹介されています。

 

 南米の運命を変えた金、国家の力を表す鉄、ほぼ人類史と共に歩んできた陶磁器、東アジアの植生と豊富な水資源に支えられた紙……

 

 このような古くからある物も多く取り上げられていますが、世界史を「変えた」というインパクトがあるのはやはり最近生み出されたゴムやプラスチックといった高分子系でしょうか。なにせ時代を降るほど情報伝播も流通速度も早いので「変化が起こっている」感じが強まります。変化率。

 

 特に天然に似たものが存在しないと言ってもいいプラスチックの爆発的な浸透速度といったらすごいです。一昔前までは木だった、陶器だった、金属だったものが気づけばプラスチックに置き換わりました。こういう新素材の御多分に洩れず最初は軍事的な要求が大きかったようで、現在でも生産量の約4分の1を占めるポリエチレンは、当初「軽い絶縁性素材」としてWWⅡの際航空機や艦船に乗せるレーダー用途に大歓迎されたそうです。日本?言わせんな………

 

 プラスチックはその短い発展史の中で何度かセレンディピティが登場します。ニトロセルロースもポリエチレンも偶然出来たものですし、プラスチック合成触媒の王様と言えるチーグラーナッタも偶然生まれました。しかし偶然出来た「ベタっとしたワックス状の何か」を使えるものとするには、もう一段も二段もハードルがあります。有用なものと気づかず、あるいは脇道を追いかける余裕がなくて、周りに反対されて、時代が合わなくて、葬られてしまった重要な発見って意外と多いんじゃないかなあと思います。

 新しい素材がそれとして世に出るには、この偶然を拾い上げる力と環境が非常に大事になりますね。発見のみならず認められるまでを考えると、かーなーーり運要素強いです。セレンディピティって「偶然素晴らしく有用なものができること」ぐらいの意味になってますが、もっとこう、メタ的な要素が多分にある言葉なのではないでしょうか。

 

 昨今マイクロプラスチック問題が取り沙汰されていますが、この軽くて透明であり、頑丈で、安く、成形加工しやすく、目的に応じていろんな機能を持つものを作ることができる素材というのはやはり非常に便利です。であるからこそ既存の素材から置き換わったのであり、そう簡単になくす方向には動かないだろうなと思います。

 そういやイントロに書かれていた「ローマのプラスチック」については一体どんなものだったのかめちゃくちゃ興味をそそられます。なんなんですかね?本当にプラスチックだったのでしょうか。一見ガラスだけれど床に投げつけると割れずに凹み、金槌で叩くと戻る……うーん…そんな金属みたいな挙動のプラスチックあるか?しかし一見ガラスということは透明なのか……重さはどうだったんでしょうね?気になることだらけです。

 

 

 素材を通じてみる世界史、素材が支え素材が進めた人類史。

 素材の発展なくして現代社会の形成はあり得ず、一方素材も社会の要求によって生かされてきました。これから先、おそらくはコンピュータの力を借りつつ次々と新素材が生まれることでしょう。一体どんな素材が生み出され、必要とされ、利用され、どのように社会は変わっていくのか。生かすも殺すも、生きるも死ぬも人類次第ですね。

 

 

 

(181ページの「ポリエチレンテレフタラート」は間違ってる気がとてもするので次が出るならそのとき直して)(これポリプロピレンの構造や)(PETの構造は次のページに出てくるからこちらは多分キャプション間違いだと思う)