生物はなぜ死ぬのか - 寿命は何で決まるのかを総浚いする一冊

 オリンピック開幕しましたね!!
 おそらく誰もやらないだろうと思っていた今回のオリンピック。タイミングも悪く東京緊急事態宣言という状況下で「やるの?ほんとにやるの??」と言いながらスキャンダル的なあれこれで直前までゴタゴタしつつ、何とか始まりました。
 思うことはありますが、選手たちの表情を見ると、とにかくやるからには大事無くよい大会になりますようにという気持ちが勝ります。がんばれ!

 

 さてだいぶご無沙汰でしたねー読書記録。

   生物はなぜ死ぬのか
   小林武彦
   講談社現代新書

 

 最近講談社Twitterでよく見かけます。今一押しなのでしょうか。所持している本では帯の煽りが「最先端サイエンスの果てに見えたのは現代人を救う”新たな死生観”だった」となっており、読み手の死生観に訴えるような本にしたいという著者と出版社の思いが伝わってきます。

 

 で、そんな衝撃的な一冊なのかというと少なくとも自分にとってはそうでもないな、というのが読後感です。いや斜に構えているわけではなく。割と納得感があり、まあそうでしょうね、と思うことが多かったです。もちろんここで提示されている生物が死ぬ理由は現段階であくまで仮説であり、今後研究が進んで変わってくる可能性は大いにあります。

 

 本の構成としては

1. 地球上での生命誕生のメカニズムとDNAの基礎
2. 多細胞生物の登場と生物種の絶滅パターン
3. 個体の死に方パターン
4. ヒト、特にヒト細胞の死に方メカニズム
5. 生物の死をどう捉えるべきか、そしてアンチエイジングの可能性

の全五章立てになっています。
 自然淘汰と選択と進化と多様性がキーワードで、「死ぬ方種類の方が優位であったから死ぬ種が残ったのだ」「死によって子孫の多様性を確保できる種が優位である」という方向の論です。

 

 このように全てを結果としてみるやり方は個人的には違和感は小さく、大テーマに対しては「な、なんだってー!!」という衝撃はなかったな、と。また二章あたりの絶滅の話は頭の中?でした。絶滅は生物の進化を促したかもしれんけども次代は子孫には当たらないわけで……どうなんだこの論?

 一方で4章を中心に展開される「分子レベルで現在わかっている死のメカニズム集」は結構知らなかったこともあったのでその辺りは楽しかったです。

 

 「生物はなぜ死ぬのか」という表題自体考えるほどそもそもどういう答えを念頭に置いた問いなのかがわからなくなってきますが、この本のように「より多様な、結果として多くのDNAを残せるような種が滅びずに来た結果である」とするときに立ち上がってくるのは「核酸なるものの不気味さ」であるように感じます。
 原初の海で短いRNAとタンパク質のブヨブヨした塊ができて以来、わざわざ外界からエネルギーを取り込みながら複製を繰り返すこの物質。あるいは、これを駆動し続ける化学反応。化学反応なんていうものは条件が揃えば条件に従って進行するものなのでそこに意味なんてものは存在しないのですが、思わず「意味わからんなこの反応」と呟きたくなります。
 「DNAが増えるような特徴を持つ個体が残ってきた」からもう一段化学まで落とせないかなーと考えるのですが、あくまで進化は統計的な圧なのでちょっとそのまま言い換えは出来なさそうなんですよねえ。複数個体を外界共々まとめて系にして「DNA複製を伴う一連の化学反応が自由エネルギーをより負にする(だから系全体でよりDNAを増やすような反応が熱力学的に優位である)」とか書けたら面白いんですが流石に無理がある。外乱要因大きすぎるし。まあDNAに多様性が生じる方向の方が確かにエントロピー的には?有利かな?(まだ言ってる)

 

 文章は特に序盤にやや情緒的なのもあって、ガチガチサイエンスではなく茶飲み話っぽい雰囲気のある本でした。